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「生まれながらの格差」を認める所から始めよ

時事問題から考える

最近、ネット上で「親ガチャ」なる言葉が流行っている(?)ようです。

?を付けたのは、実際はそこまで流行っていないからだと思うからです。大手メディアがワイドショーなどでこの言葉を取り上げたので、今は一時的に話題になってはいますが、以前から使っていた人はあまりいなかったからです。

だから若者層に流行っているというよりも、一部のネット利用者が使っているだけだと考えていますが、それでもこの言葉が一定の市民権を得ているということは事実です。

この言葉に対して、メディアや有名人はあまり肯定的な視点では見ておらず、「努力で挽回することもできる」などと鼓舞する論調が目立っているようです。

確かに、外的要因だけを理由にして、努力をすることや向上しようとすることをしないのは良くないことであると思いますし、本人のためにもなりません。

しかし、努力さえすれば成功する、幸福な人生を送れると説くことは、かえって悪影響を及ぼす面もあるのではないかと思っています。

「親」からもたらされる外的要因にはさまざまありますが、個人的に人生に最も影響を与えると思うものの1つが、「親から遺伝した性質」です。

ルックスや頭の良さ、コミュニケーション能力など、あらゆる要素は遺伝の影響を受けています。大抵の人は「平均的な」ところで落ち着いていますが、遺伝した能力が著しく劣っている人も一部います。

例を挙げれば、生まれつきコミュニケーション能力(以下、「コミュ力」とします)が低いという人たち。自閉症や、発達障がいの一種であるASDを抱えている人、吃音がある人などが含まれるでしょう。このうちASDや発達障がいは遺伝によってもたらされることが多いですから、特に強く親の影響を受けていることになります。

このような人たちの中には、健常者として一般の人と同じように社会生活を送っている人も数多くいます。しかし、彼ら全員が一般の人たちと共存できているかと問えば、決してそんなことはないと思います。

彼らの多くは、高校や大学を卒業する段階で経験する「就職活動」で苦労させられています。ある新聞記事では、「学歴は親の影響を受けることがあるかもしれない(東大生の親に中・高所得者層が多いことは有名)が、それ以外の要素は自分自身の力や努力で挽回することができる」と書かれていましたが、私はこれには少し疑問です。

そもそも就職活動の中核を占める「面接」では、コミュ力が要求されます。ASDや吃音など、生まれながらにしてコミュ力が劣っている人たちも、同じように要求されるのです。しかし、彼らは訓練などで多少は能力を改善させることができるかもしれませんが、どうあがいてもコミュ力が長けている人に勝つことはできません。

バブル崩壊以降、コミュ力が就職選考で重視されるようになって久しいですが、現代の企業や就活関係者は、「コミュ力は努力すれば向上できるし、向上すべきである」との思想に囚われ、ASDや吃音がある人など、努力だけではどうすることもできない人たちを見捨てているのではないかと思うのです。

「ASDや吃音があれば障害者手帳を取得できるはずだ、障害者枠で就活すればいい」と考える方もいらっしゃるでしょう。しかし、残念ながら障害者枠の労働市場でも、彼らの多くは真の価値を認められておらず、「コミュ力がないから」という理由で切り捨てられているというのが現状です。

そしてそんな彼らがどこに行き着くのかというと、無職や引きこもり状態になったり、非正規雇用で低賃金で働いたり、彼らが持つ価値とは全く関係のない世界へ行ってしまうわけです。これによって、彼らだけでなく、彼らを正しく活用出来ていない社会にも損失が発生しているのです。

まあ長々と書いてしまいましたが、私が思うのは、生まれながらの障がいである発達障がいを抱えている人が増えていたり、インターネット上で恵まれている人の様子を容易に見ることができたりする現代では、「努力すればなんとかなる」という考えはもはや通用しないし、それを唱えている人の意図が透けて見えてしまうということです。

「ダイバーシティ&インクルージョン」が叫ばれる現代で求められるのは、「努力」によって「一般人」や「成功者」になろうする人を増やすのではなくて、決して能力が完全ではない人や、ハンディキャップを持っている人でも不自由なく幸福に生きることができる、そんな社会を作っていくことではないでしょうか。

「臭い物に蓋」をし続け、きれいごとだけを説くのもそろそろ限界に来ていると思います。コロナ禍やオリンピックで人々の意識が変わりつつある今だからこそ、社会システムを改めて見直し、”SDGs”が唱えている「誰一人取り残さない社会」を官民一体で作っていくべきではないでしょうか。

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